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ウォミンクアップ
 ウォーミングアップの生理学的な目的は、筋温を上げることと神経系の回路の通りを良くすることです。体を温め関節可動域を大きくすることで怪我の予防につながり、また運動のパフォーマンスを上げるために行ないます。また心理的な面でも大切で、今から練習を始めるんだという意識を持たせ、またチームの一体感などをもりあげます。一体感などは大会などの時には顕著です。

 主に軽いジョギングや体操で体をほぐします。その後にストレッチを行ないます。ストレッチは1ポーズにつき10-20秒程度が目安です。続いて種目に応じた全身的な運動、戦術等を加味した軽いゲームなども効果的です。総時間はおよそ15分を目安とします。fig.1のとおり、筋温はおよそ15分で十分です。しかし季節や体調なども多少考慮して増減してください。なお一般論として、日本人はウォーミングアップが長いと言われてるそうです。真面目なのかな、それとも。 当然ですがやり過ぎると、ウォーミングアップで疲労してしまいます。


fig. 1 ウォーミングアップの時間と筋温、直腸温
自転車エルゴメータを用て30分間のウォーミングアップ

Asumussen,E., et al : Body temperature and capacity for work. Acta Physiol , 10:1-22,1945

具体的な効果は以下。
  • 筋温を上げておくと、筋の酵素活性が高まり代謝が活発になります。
  • 筋温の上昇により、筋肉中のカルシウムイオンが活性化されて筋肉の粘性が低下するとの知見もある。粘性が低下すると、筋の長さが変化することに抵抗が減る。
  • 血流量も増加して利用出来る酸素量が増加する。内臓や皮膚への血量が減少し作業筋への血量が増えます。
  • 運動開始時の酸素摂取量の立ち上がりに差が出ます。その生理学的背景は、体温の上昇によりヘモグロビンの酸素解離が増加し、筋にたくさんの酸素が供給されること。ヘモグロビンの酸素解離曲線などは高校生物でもお馴染みです。(fig.2)
  • 体温の上昇に伴い、滑液(関節の潤滑液)が十分に分泌される。これは体温が十分に上がらないと分泌されない。
  • 神経線維の電動速度は、約40℃までは,温度が高いほど速まります。ですので、ウォーミングアップにより筋温をあげると、神経線維の興奮伝達性を亢進させます。


fig.2 運動開始時における酸素摂取量応答に及ぼすウォーミングアップの影響
左がウォーミングアップなしで運動を開始した場合。右がウォーミングアップをしてから運動を開始した場合。例えば、50分辺りを比較すると、左は30ほど酸素を抱えていますが、右では15くらいです。つまり左は酸素をしっかり取り込めていない、,右はしっかり取り込めています。運動開始時の酸素摂取量の立ち上がりに差が出ます。

Measurement of mixed venous oxygen tension by a modified rebreathing procedure Cerretelli et al. J Appl Physiol.1970; 28: 707-711



ウォームダウン(クーリングダウン)
 ウォームダウンの目的は運動後の筋肉や他の器官を安静時の状態に戻すことです。ストレッチや軽い運動が代表的なダウンです。血液分配の正常化や下半身に溜まった血液を戻すなど効果があります。また積極的休息(Active Recovery)というものもあり、軽い運動により代謝が高まり老廃物の蓄積を最小限にする方法が有効です。(fig.3) 強度については「楽ちんだなぁ」と感じるくらいのものがよく、「しんどい」と感じる程度のものは向きません。時間は10-15分位が目安です。
 老廃物についてだけではなく、崩れた身体のバランスを整えたり筋肉の柔軟性・関節の可動域を元に戻します。ダウン時のストレッチは、大きな関節から小さな関節へ行い、20-30秒と少し長めに行います。


fig.3 運動強度と乳酸除去率(%Vo2max)
ここでは運動強度=最大酸素摂取量ですが、計測・計算上は32%のときに乳酸除去率が最も高くなりました。しかし並行して行った実験では、個人による好みの強度(ここでは56.2%と51.6%)でウォームダウンを行っても時計的に優位な差は見られなかったという。したがってウォームダウンは選手の意思で行うことが効果的であると示唆されている。なおここで言う32%とはだいたい心拍数が110-120くらいのことです。
Lactic acid removal rates during controlled and uncontrolled recovery exercise,A. N. Belcastro and A. Bonen ; J Appl Physiol 39: 932-936, 1975

 トレーニングというと、動的な活動というイメージがありますが実際には静的な要素も含まれます。つまり休息もトレーニングのうちなのです。次の練習の時に疲れを残さない、また一大衆スポーツであれば日常生活に疲れを残さないと言うことは大切なことです。疲れを残せば次回のトレーニングのパフォーマンスが落ちます。これをしないために、ウォームダウンと休息が必要になります。

 トップアスリートになると、トレーニングには上記のように休息はもちろん食事も含まれます。以前テレビでプロボクサーがまずい顔して食事してました。「美味しくないけど身体作りも仕事のうちですから」てな具合。有名競技のトップアスリートであれば、ウォームダウンの後に、コーチに一時間ほどのマッサージをしてもらってできる限り疲労を引き継がないと言うことも行われます。
 大衆アスリートと言えども、疲労を残さないようにすることもトレーニングの一環である、という認識が大切です。


  • 右腕を疲労するまで運動させて、回復させる時に左腕を運動させると運動させない時と比べて筋力の回復に明らかな差があった。セチェーノフ ソ連 1903
  • 運動後に強度を落としながらもしばらく動き続ければ、筋によるポンプ作用により心臓への静脈帰還が促されて運動後の吐き気やめまいを防ぐことができるとしている。Royce 1969
  • 更衣室や練習場所を遠くに置くことも有効である。


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