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 初版教範(1952)は少林寺拳法創始50周年(1996)の時に復刻されており、簡単に手に入ります。まだ本部いけば購買部にありますしヤフオクでもよく見かけます。これを紐解くと少林寺拳法の修練過程の構想が見えてくるように思われます。現代では大きく改変されています、つまりこれらは適さないとして捨てられたものも多いのですが、基本的な流れには現在と共通するところも多くあり、現代の科目を理解する上で面白いネタを提供してくれます。ですので、ちょっと抜き出してみます。

まず〜、「少林寺拳法形の分類」P.106は、
  • 徒手格闘之形
  • 柔之形
と大別されています。柔之形の詳細はなく徒手格闘之形はさらに七つの段階が細かく示されています。この内容は今でいう剛法そのものなので、「徒手格闘之形」はイコール剛法として差し支えないでしょう。現代の教範で「徒手格闘基本法形」といえば剛柔両方を含みますけどね。もしかして整法以外てことかなぁ。さてその七つの段階とは、
  1. 独練之形
  2. 単攻防之形
  3. 単撃之形
  4. 段撃之形
  5. 連撃之形
  6. 連之形
  7. 演武之形
であります。これらをさらに付録として併記されている科目表と合わせてみることで修練過程のイメージが妄想できます。


1.独練之形

 「単独で行う攻防の基本訓練」となってます。独練之形自体は、
  • 単攻防
  • 連攻防
  • 演武形
で構成されています。ここでの内容は今でいう基本でしょう。突蹴、受また単演をやることだと思われます。単攻防も連攻防も、振子・転身・前進に細分されていますので、その場でやる・運歩付けてやる、前進移動しながらやる、というのが現代同様組織されているように思われます。
 ちょっと面白いのが「演武形」に、「卍之形の系統」「龍之形の系統」という記述があることです。当時からこの二つは演武形として剛柔それぞれを象徴付ける名称として用いるつもりだったんですね。現代でも多分中身は違うと思いますけど、この二つの単演はちょっと特殊な位置づけですよね。このときは、今みたいな単一な単演ではなくおそらくもっと複数の構成、そう天地拳が六系まであるように、が考えられていたのではないですかね。全体からはそんな雰囲気があります。
 演武形にはあと「混合」てのがありますが、これは五花拳みたいなのでしょうか。


2.単攻防之形
 さてこっからが本項のメインでせう。大切なのは個々の修練ではなくどういう流れで学ばせたいのか、どのような修練体系なのかということですから。

 「突、蹴と其の受方の組み合わせ」となってます。ここからは組手主体を特徴と掲げる少林寺拳法ですから早々に相対演練のことになるようです。単攻防之形は付録科目表では基本攻防之形として書かれています。その内容は、攻者の攻撃に対して守者は受ける、反撃なしの段階のようです。実際に付録科目表では「上受蹴」の前週に守者が反撃を伴わない「上受だけの科目」があります。反撃無し科目で一日費やしています。これはその後出てくる仁王拳三合拳の剛法法形すべて同様で、受けたけの日が設けられています。これは現在の科目表では、「基本諸法」の中にその名残として「攻防技」という語句が見られます。
 ただし受けだけと言っても開構え・対構えで表裏をちゃんとやっています。そして翌週の「上受蹴」では表裏順逆の四法が指定されています。これはまずひとつとても重要なポイントでしょう。
 話が脇にそれますが、現代の法形演練はこのうち一法しかしないのが通常ではないでしょうか。いわゆる試験用の一法しかしていない。この付録科目表まで逆上らなくても、かつての科目表には左右や順逆の指示がありました。しかしこれを消してしまったので
(1986年改訂の科目表のこと)、ほとんどの支部は一法のみの修練となってしまいました。おそらく消したときは本部も「いやいや、護身術だし当然、左右とかもやんでしょ」とか思ってたんでしょうが実際はやんなくなっちゃったんですわね。現在どこでもやってるといえばも千鳥返くらいかな? そして現代の法形は極めて狭く虚弱なものになってしまい、体を作ることもできず、思考の柔軟性はなくなり、護身の技術としての多様性はもないもののになってしまったわけです。左右すらやってない拳士が、させてない指導者が、自由攻防乱捕りで法形が生きないとかアホなこと言うわけです。おっと失礼〜

 はいすいません。んで話し戻って現代にはない受けだけの日があるというのは、まさに守主攻従を強く印象付けるものですね。まずしっかりとした受けがあって、不敗の体勢をつくって、という文句はこういう過程を前提としているように思われます。くどいようですが、このしっかりとした受けという言葉には、左右もできる順逆もできるという意味が含まれていると考えるべきです。右手なら受けれるとか条件付きなのはしっかりとは言いがたいでしょう。


3.単撃之形 4.段撃之形 5.連撃之形
 「単撃を受けて極め技を入れる」とあります。「単攻防之形」では、攻撃に対して受けが列記されていましたが、今度は内受突や下受蹴といった反撃付きのつまり法形名列記されています。ここからがようやく現代で云う法形演練ですね。そして各法形の下には「表裏」てわざわざ書いてますね。わざわざ。

 段撃之形は「受けた手足で反撃し極め技を入る」、連撃之形は「二連又は三連を受けて極め技を入る」となっております。それぞれの組織図は極めて明確に、
  • 手攻撃
  • 足攻撃
にまず分かれています。これはつまり、お気づきの方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、
手攻撃 足攻撃
3.単撃之形 仁王拳 三合拳
4.段撃之形 白蓮拳 鶴立拳
5.連撃之形 天王拳 地王拳
という対応分類があてはまりますね。まぁ今は手攻撃でも足反撃してれば三合拳なんですけど。実際に、各項目に具体的に書かれている法形が、現代の拳系におおよそ対応してます。現代の剛法法形の分類も改めてこう書くと整理がついて分かり良いなぁと思います。試験なんかでも各拳系の特徴を分かりづらい文章で書かせますけど、文章の比較対応が曖昧だからなんのための分類なんだと思っていましたが、拳系をうるさく言うのはこういう少林寺拳法の体系上の理由があったのね、と改めてw 今は大分類の単・段・連の一段階がすっとばされて拳系だけの表記でちっょと分かりづらくなっているのかなと。
 また飛龍拳とか打虎拳とかが消えたのは、なんか諸説あったけど単純に全体のまとめ上の問題なんだなと分かります。どっかに入れちゃえてことですね。
 単・段・連で並べていくと、いかにも段階的に見えるw 漸々就学ぽく見えてきますね。ちなみにここでは、単・段・連という並びだけど、付録科目表では現代同様に突天一が燕返より先にありつまり段より連のほうが先に習ってます。段のほうが難しいですからね。

 さてあとは細かいところでは、流水突・拳受段突・足受段蹴・混天三があるとか、下受段になってるとか夢が広がるなぁ。下受蹴が、足攻撃足反撃(つまり三合拳カテゴリ)のとこだけじゃなく、手攻撃足反撃の中にも書いてある。それにしても今ある法形のほとんどが既に書かれている。初版教範にしてこのボリューム。すごいなぁ開祖。でも何故、現代は下受段突・外受段突・打上段突を白蓮拳ではなく仁王拳に入れたのだろう。しかも二版教範では一回消えてるよ…。払受段突は白蓮拳なのに…開祖ぉぉ


6.連之形
 「受けてから連反攻をつける」となっています。実はここまで連反攻は無しです。現代でも(1986年の)科目表では、三級は連反攻はなく二級からは全部連反攻が支持されていますね。連反攻なんて三級でも付けられるなら付けりゃいいじゃんとか思ってましたが、付けない段階を明確におくのはこういった初版教範のころの名残なのかな。

 これまで行われた単・段・連の各法形に対して「連之形」として「上受連之形」だとか「」燕返連之形」といった記述があります。ここでちょっとだけ重要なのが前述したとおり、法形には連反攻付ける形と付けない形があるということだ。これは現代でも生きていて、現代教範によると三合拳は「左右単連四形」、天王拳は「左右、連反攻、四形」とか書いてあって、「なんだよ連て?」てずっと疑問でした。初版教範の記述からして現代教範の「連」は今で言う連反攻付けるか付けないかてことでしょうね。でもなんで三合拳と天王拳だけ書いてあるんだろう・・・開祖ぉぉ
 しかし、次につづく「演武之形」を目前にして、連反攻が来るのは自然な流れですね。各法形を連反攻を通して連結させる。流れを途切れさせず繋いでいくのは反攻という技術的な意味だけではなく、修錬上の大切なポイントであることが分かります。
【参考】連反攻について

 付録科目表では連反攻の内容も指示されていて「天一連之形」は同時蹴の後に、踏込手刀切・中段突・裏拳突・戻蹴の四回攻撃してます。おっとさらりと戻蹴www夢が膨らむぜ教範は。さらに後に出ててくる燕返の連攻は5-6撃て指示されてます。こちらは数字がアバウトだし詳細もか書かれてないので自由な連攻が求められるのかもしれません。


7.演武之形
 「多くの攻防技を組合わせたもの」とあるが。この組織図はよく意味が分からない。とにかくいろんな☆●拳みたいな名前が並んでいる。黄卍拳のとこだけちょっと具体的。さらに細かい▲■拳に分かれるがその下に数字がある。全部足すと21になる。21技のことだと思うんだけど…ちなみに「2.単撃之形」の頁に記載されてる技数が21技なんだけど関係あるんだろうか。
 ぶっちゃけ開祖後で考えようとしてとりあえず書いといたんじゃ…教範とかカッパブックスとかをよく読んでいる方は分かると思いますけど、開祖てこういう後で考えよう、とりあえず項目増やしとこう的なのがよくあるのよね。。。いや、確信は無いが。実はちゃんと有ったけど取捨選択されただけかも知れんけど。
 問題はこの組織図が、これまでの1-6と繋がらないと言う事でごわす。説明の「多くの攻防技を組合わせたもの」だけ見るとなんだか如何にも現代の組演武を匂わせているのに図が。せっかくたくさん法形やったんだから今度はそれをパーツに組み合わせるのはありそうなのになぁと。今後も調べるしかないね。


まとめ :
 拳系の分類はないが、動作により分類され段階的に構成されている。拳系の基礎は既にある。
 反撃がない段階・連反攻がない段階が明確に存在する。



●付録科目表の流れ
 こちらの流れも面白い。こちらは組織図ではなく文字の羅列だから気になったところを書き出しまする。

  • 構成は禅林学園予科の初期・中期・後期と本科前記後期の科目表で五段階という構成です。
  • 予科初期はすべて柔法。剛法系の技は無い。
  • やっぱり一番初めは、腕十字だ。そんで次は小手抜。伝統ですな。
  • 剛法科目は無いが、正拳の付き方といった基本はある。受けと蹴も基本項目にはある。初級で、足刀蹴や十字受もやらしてます。
  • 振子突の前週に、体裁きの無い突から始めている。振子突は体裁と重心移動を伴う突だから実はかなり難易度か高い突き方です。これは他流の人にも指摘されたことがある。だから付録科目表では「基本突単」の翌週に「振子単突」が入っているのには感動する。昔は振子突の前に重心移動をしない三角突というのをやらされたと聞いたこともあるのでこの話とも合う。
  • 抜技は当然、左右が支持されておりまっす。
  • 学科は初っ端からして仏教ど真ん中。説きまくり。
  • 中級になってようやく剛法科目。前述の通りまずは反撃しない形があります。
  • 中級は剛法ばかりであり、
    • 上段直突きに対するもの
    • 上段曲線突に対するもの
    • 中段直突に対するもの
    • 直蹴に対するもの
    • 廻蹴に対するもの
    が行われる。ちゃんと徒手格闘の主要な攻撃パターンが網羅されてる。ちゃんと考えてるな〜
  • また上段に対する直突と曲線突に対する対処は上受突と押受突がチョイスされているのもうれしい。これは現代の法形でも構えから残心までの過程か受け以外はすべて同じです。つまり相手が直線で来ても曲線で来ても動作がほぼ同じだから対処しやすい。受けの感覚自体も上受と外押受はほぼ同じにだせるから戸惑う必要も無い。また、付録科目表の中にも、外押上受とか言葉がある。ほんと似てるというか体感覚は同じだもんね、この二つ。
  • 後期。内受突守者が待気構を指示されている。古い科目表では燕返を一字構から始めているものもある。内受突と燕返の親和性、というか段階的な流れがより見えてきますね。【参考】法形の組み合わせのIV垂直
  • 待蹴の法形としての形も書いてあるなぁ。
  • なんだよ、流水双手受て。双手受?両手寄抜とかでやる一度払うつやかな?
  • 突天一、対天一、混天一のみっつをセットで天一之形と呼んでる。守者は乱構でで指示されている。【参考】天三の形
  • 本科。おぉ、昔はちゃんと打払段突になってるw 払受て現代でも法形ではひとつも使ってないのよね。払受蹴も天地拳も全部打払受が指示されてますよね。
  • うぉぉ、合気構えが登場してる!! 刃物用なのか。
  • 最後のほうでいきなり、演武形がくる。が内容がわからん。「演武形 打虎拳」「演武形 卍之形」と書いてある。
    流れからして単演とは思えないが。多くの攻防技法を組み合わせたもの、とP.106にあるから十手くらいのテンプレートのある組演武のことだろうか。
    おそらく今で言う、試験のときにやっている10技の規定組演武のことなのかも。1975年の科目表の試験科目には抽出科目のところに(演武形)ととあってこの演武形てのは阿羅漢〜系や那羅延〜系のことだから、やっぱり、演武形は複数の法形を組み合わせたもののことになる、のでは。。

まとめ : 夢が詰まってるなぁ

詳しくは、初版教範を読んで下さい。

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